パン屋開業資金シミュレーション|モデル別の初期費用・融資・回収計画

開業資金はいくら必要か、融資はいくらまで・何年で返すのが妥当か、何カ月で投下資金を回収できるのか。
本記事は、BakeryBiz編集部が公的資料(日本政策金融公庫・自治体等)と開業データをもとに、パン屋の資金計画を「費用構造」「3つのモデル別試算」「資金回収モデル」に分けて解説します。
創業計画書と資金繰り表の作り方の一次情報もあわせて提示します。
目次
1. 開業費用の構造(設備資金+運転資金)

開業費用は「設備資金」と、「運転資金」に分けて設計します。
設備資金:窯・ミキサー・冷蔵冷凍・内装・保証金など長期効果のある投資
運転資金:原材料・人件費・水道光熱・広告などの日常支出
定義を明確に区別して申請・管理するのが基本です。
制度上の区分と用途は公的解説に準拠してください。
創業向けの公庫制度では、設備資金は最長20年、運転資金は最長10年(いずれも据置期間を含む)といった返済期間の枠組みが整備されています。
限度額や利率区分は制度ページの最新情報を確認してください。
参考:日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援等」 https://www.jfc.go.jp/
参考:中小機構 J-Net21「起業に必要な資金」 https://j-net21.smrj.go.jp/
2. モデル別シミュレーション(概算・税抜)

以下は概算例です。
立地、相場、工事仕様、機器の新品/中古で大きく変動します。
意思決定前には見積・賃貸条件・電気容量等の実測確認をしてください。
モデルA:居抜き活用 10–12坪(個人開業)
| 主な初期費用 | 概算 |
|---|---|
| 機器(窯・ミキサー・冷蔵冷凍 等/中古混在) | 300–500万円 |
| 内装・小工事(動線・電源・防水・看板等) | 100–200万円 |
| 保証金・仲介等 | 100–200万円 |
| 開店在庫・広告初動 | 30–50万円 |
| 運転資金(3か月目安) | 120–180万円 |
| 合計目安 | 650–1,100万円 |
モデルB:新装 20坪(本格店)
| 主な初期費用 | 概算 |
|---|---|
| 機器(新品中心) | 800–1,000万円 |
| 内装・施工一式 | 600–900万円 |
| 保証金・仲介等 | 200–300万円 |
| 開店在庫・広告初動 | 50–80万円 |
| 運転資金(3–4か月) | 200–300万円 |
| 合計目安 | 1,850–2,580万円 |
モデルC:工房併設 35坪(小ロット卸併用)
| 主な初期費用 | 概算 |
|---|---|
| 機器(回転窯・リターダー等) | 1,200–1,800万円 |
| 内装・動力工事・給排水強化 | 900–1,300万円 |
| 保証金・仲介等 | 300–500万円 |
| 開店在庫・広告初動 | 80–120万円 |
| 運転資金(4–6か月) | 350–600万円 |
| 合計目安 | 2,830–4,320万円 |
※上記はモデル化した概算であり、公的サイトが示す一般論(「設備資金」「運転資金」の区分や創業資金の考え方)や私たちの実績値に沿って内訳を構成しています。
詳細の考え方:J-Net21「起業に必要な資金」 https://j-net21.smrj.go.jp/
3. 資金回収モデル(損益分岐点・回収月数)

損益分岐点売上高=固定費 ÷(1 − 変動費率)。
パン屋の変動費率は原材料・包材・カード手数料などを含め35–45%で置くのが実務的です(商品設計で差が出ます)。
例)モデルA(居抜き10–12坪)の月次モデル
先ほどのモデルAを例に表してみましょう。
- 月商:300万円
- 変動費率:40% ⇒ 変動費 120万円
- 固定費:家賃20・人件費60・水道光熱10・その他10 ⇒ 合計 100万円
- 営業利益:300 − 120 − 100 = 80万円
このときの損益分岐点売上高は 100 ÷(1 − 0.40)= 約167万円。
月商300万円なら黒字余力は約133万円(営業利益+固定費回収余力)という見方ができます。
回収月数の考え方(簡便法)
投下資金回収月数 ≒ 初期投資総額 ÷ 月間フリーキャッシュ
月間フリーキャッシュは「営業利益 ± 運転資本増減 − 借入元金返済」で概算します。
資金繰りは資金繰り表で月次管理するのが推奨です。
例:初期投資1,000万円・営業利益80万円・毎月の元金返済25万円 ⇒ フリーキャッシュ55万円 ⇒ 回収約18か月(据置期間は別途考慮)。
こちらも参考になりますので、ご覧ください。
参考:J-Net21「損益分岐点の計算」「資金繰り表」
https://j-net21.smrj.go.jp/startup/finance/
https://j-net21.smrj.go.jp/special/keieihyo/
4. 融資・信用保証・補助的制度の使い方

① 日本政策金融公庫(国民生活事業)
創業・スタートアップ向け制度は、使い道(設備/運転)・限度額・返済期間(据置含む)等が整理されています。
創業計画書の記入例も公開(無料ダウンロード可)。
最新要件・利率は制度ページで確認しましょう。
日本政策金融公庫トップ:https://www.jfc.go.jp/
創業計画書(記入例ページの検索推奨):https://www.jfc.go.jp/
② 自治体×信用保証協会×金融機関の制度融資
例:横浜市「創業おうえん資金」。
申込は取扱金融機関経由→保証協会審査→融資実行という流れ。
保証料・金利等は制度ごとに異なるため、居住/出店自治体のページで最新条件を確認してください。
東京都の創業保証制度(東京信用保証協会)も代表的な仕組みで、創業者向けの書類・要件が整理されています。
・例:横浜市「創業おうえん資金」 https://www.city.yokohama.lg.jp/
・例:東京信用保証協会「創業保証」 https://www.cgc-tokyo.or.jp/
5. 計画を数字に落とす:創業計画書と資金繰り表

- 創業計画書:売上計画・原価・経費・資金調達・返済計画を1枚に集約。公庫の記入例を参考にすると漏れが減ります。ぜひご覧ください。(日本政策金融公庫:https://www.jfc.go.jp/)
- 資金繰り表:「現金の先読み」をする実務ツール。入出金・返済・残高推移を月次で確認します。
融資交渉でも提示価値が高いのでしっかりまとめておきましょう。(J-Net21(資金繰り):https://j-net21.smrj.go.jp/)
6. 失敗を避けるチェックポイント

- 固定費(特に人件費・家賃)を月次粗利の70%以内に抑える初期設計
- 原価率は商品別で設計(看板商品は粗利を厚めに)
- 初期投資の「後戻りしにくい機器」から優先配分(窯・ミキサー・冷機)
- 据置期間終了後の元金返済増を資金繰り表で事前検証
- 売上予測は悲観・中立・楽観の3シナリオで貸借対照表の着地も含めて検証
7. よくある質問
Q. 初期投資はいくらが妥当?
A.居抜き10–12坪で650–1,100万円、新装20坪で1,850–2,580万円、工房併設35坪で2,830–4,320万円が一つの目安(概算)。相見積もり必須。
Q. 返済年数は何年で組むべき?
A.設備資金は長期(〜20年)、運転資金は中期(〜10年)が一般的な制度枠。資産耐用年数とキャッシュ創出力で設計。
参考:日本政策金融公庫
Q. 書類はどこから入手?
A. 公庫の創業計画書(記入例)と自治体の制度融資ページで必要書類を確認しましょう。
日本政策金融公庫:https://www.jfc.go.jp/
横浜市:https://www.city.yokohama.lg.jp/
東京信用保証協会:https://www.cgc-tokyo.or.jp/
まとめ:資金計画は「構造→モデル→資金繰り」の順で固める

- 費用は「設備資金」と「運転資金」を厳密に分けて設計
- 3つのモデル(10–12坪/20坪/35坪)で初期投資のレンジを把握
- 損益分岐点と資金繰り表で回収月数を先に見る
- 公庫・自治体制度を組み合わせ、資金コストを最適化
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本記事は一般的情報の提供を目的としたもので、最新の制度・利率・条件は各公的機関の一次情報をご確認ください。
監修・執筆:BakeryBiz編集部

この記事書いた人
BakeryBiz コンサルタント 山本 遼
(M&A・ブランド支援担当)
年商億規模のパン屋を経営し、事業売却を経験。
現在は全国のベーカリーを対象に、M&Aや事業承継を支援。
現場視点と実務知識を活かし、納得のいく譲渡をサポート。
株式会社アルチザンターブルは、中小企業庁のM&A支援機関に登録されており、「中小M&Aガイドライン」を遵守した適正な支援を行っています。
M&A支援業者への手数料を補助する「事業承継・M&A補助金」も条件に応じご活用いただけます。



