パン屋の立地選びと成功確率の関係|人口・動線・競合の分析ポイント

「おいしいパンさえ作れば売れる」
そう思っていませんか?
実際、パン屋の成功率を決定づけるのは、「味」でも「センス」でもなく、“場所の選び方”です。
BakeryBiz編集部の支援実績でも、開業後3年以内に黒字化した店舗の約7割は“立地分析”を丁寧に行っていたという結果が出ています。
私たちパン屋専門のコンサルタントとしての実感でも、「味に自信がある店ほど立地分析を軽視しがち」です。
しかし、お客様は“パンの香り”よりも“通いやすさ”で店を選ぶ。これが現実です。
この記事では、開業前に知っておくべき立地判断の基礎と、成功したオーナーの考え方、そして無料で使える分析ツールを具体的に紹介します。
目次
1. パン屋の成功率と立地の関係

パン屋の開業数は増加傾向にありますが、開業3年以内の廃業率は約30〜40%(中小企業庁「小規模事業白書」 より)。
この差を生む最大要因のひとつが「立地の適正」です。
パン屋は利益率が高い業種ではないため、立地条件が1つズレると、売上構造全体が崩れます。
「いい場所は人通りが多い場所」ではなく、「ターゲットが歩く場所」です。

私の経験上、「人通りが多いから安心」という理由で選んだ物件ほど撤退が早い傾向にあります。
人が多い=購入動機がある、ではありません。
パン屋の場合、“生活動線の中にある”ことが重要です。
駅前よりも「保育園・スーパー・自転車通り」に面している店舗の方が長く続く傾向があります。
2. 商圏人口と購買頻度の考え方

商圏の定義は「徒歩10分圏内」または「半径500〜800m」。
国勢調査データや地図分析ツールを活用して人口と世帯構成を確認します。
パン屋が成立しやすいエリアの目安:
- 商圏人口:5,000人以上(または2,000世帯以上)
- 主な年齢層:30〜50代中心(共働き+子育て世帯)
- 日中人口と夜間人口の差が小さい(住宅地型)
データ参考:
・RESAS(地域経済分析システム)
・国勢調査 地域メッシュ統計

商圏人口を見るときに「数字だけで判断する人」が多いですが、“購買頻度”を想像する力が大切です。
たとえば5,000人の人口でも、週に2回通う常連が200人いれば十分成立します。
数字を見るときは、「誰が」「どんなペースで」パンを買いに来るかをセットで考えましょう。
3. 動線分析:住宅街・駅前・ロードサイドの違い

立地は大きく3タイプに分類できます。
| タイプ | 特徴 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| 駅前型 | 通勤客・学生中心 | 回転率・認知度が高い | 家賃高・客単価低 |
| 住宅街型 | 主婦層・家族連れ中心 | 常連化しやすい・口コミ強い | 通行量が限られる |
| ロードサイド型 | 車移動層・ファミリー層中心 | 広い駐車場・大量販売 | 初期投資高・仕入ロスリスク |
BakeryBizの支援実績では、住宅街型が最も安定したリピート率(平均週来店2.4回)を記録しています。

パン屋の「成功確率」は、一見地味な住宅街立地の方が高いと感じます。
駅前のように“通りすがり”に依存せず、生活リズムに溶け込む場所だからです。
私は開業相談の際、立地を3回以上現地確認(平日朝・昼・夕)するよう強く勧めています。
「どの時間帯に、どんな人が歩いているか」を見れば、店の未来が見えてきます。
4. 競合状況と差別化の見方

「競合がある=やめた方がいい」ではありません。
むしろ、競合が存在する=需要があるというサインでもあります。
同業店の数ではなく、「ポジショニング」と「商品構成のズレ」を確認しましょう。
補助ツール:
・Googleマップ検索
・商圏分析.com

競合調査で見るべきは「商品構成」と「顧客層」です。
たとえば高級食パン専門店が近くにあっても、あなたが“日常パン”に特化すれば十分共存できます。
競合が3店舗あっても、“ターゲットが重ならなければ”それはライバルではありません。
私はいつも「誰からパンを奪うか」ではなく、「誰の食卓に新しい選択肢を増やすか」で考えます。
5. 実例:住宅街12坪ベーカリーのケース

神奈川県横浜市・住宅地内の12坪店舗。
駅から徒歩8分、近隣に小学校とスーパーがあり、家族層が多い立地。
オーナーは30代。
開業時に重視したのは次の3点です。
- 住宅街における朝・昼・夕の購買ピークを分けて対応
- 食パン+お惣菜パンで2人暮らし・子育て世帯両方に対応
- SNS投稿よりも近隣口コミとリピートカード戦略を優先
結果、初年度平均月商270〜310万円を維持し、3年目には安定黒字化となりました。

この事例のポイントは「派手さより継続」。
売上は爆発的ではなくても、固定客が増え続ける店は“静かな成功”を積み上げている。
オーナーが「来てくれるお客様を知っている」
その状態を作ることが立地成功の証拠です。
6. 無料で使える立地分析ツール

開業前の情報収集は無料ツールで十分カバーできます。

私も立地相談のときは、まずRESASで“人口動態”、Googleマップで“動線”、商圏分析で“競合密度”を見ます。
すべて無料でできます。
「感覚で選んだ立地」は、開業後に修正がききません。数字で裏づけることが最大のリスク回避です。
7. 開業時に注意すべき契約ポイント

開業時、特に契約時に注意すべきポイントはこちら。
- 賃貸借契約の用途制限(飲食業可・排気可など)
- 原状回復範囲と設備残置の確認
- 電力容量・動力の有無
- 保証金返還・造作譲渡可否
📄 参考:
・全国宅地建物取引業協会連合会
・アットホーム 事業用賃貸検索

開業直前のトラブルで最も多いのは「電力不足」「排気制限」「用途NG」。
契約前に専門家(電気工事・保健所・不動産担当)を連れて内見すると、後悔が9割減ります。
“ここでやりたい”という気持ちが強いほど、冷静な判断ができなくなるものです。
8. まとめ:立地は“数字と感覚”の掛け合わせ

今回お伝えした内容のポイントはこちらです。
- 成功率は「人口×動線×競合の整合」で決まる
- 商圏人口5,000人以上・共働き世帯多い住宅街が理想
- 無料ツールで数値化し、「なんとなく良さそう」を卒業
- 現地確認は3回以上(平日・土曜・雨の日)
最後に伝えたいのは、「立地は未来の固定費」です。
家賃は変えられません。
だからこそ、最初の判断が“3年後の経営を決める”。
感覚だけではなく、“数字で見極める力”をぜひ身につけてください。
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この記事は一般的な情報提供を目的としています。個別案件については専門家にご相談ください。
監修・執筆:BakeryBiz編集部

この記事書いた人
BakeryBiz コンサルタント 山本 遼
(M&A・ブランド支援担当)
年商億規模のパン屋を経営し、事業売却を経験。
現在は全国のベーカリーを対象に、M&Aや事業承継を支援。
現場視点と実務知識を活かし、納得のいく譲渡をサポート。
株式会社アルチザンターブルは、中小企業庁のM&A支援機関に登録されており、「中小M&Aガイドライン」を遵守した適正な支援を行っています。
M&A支援業者への手数料を補助する「事業承継・M&A補助金」も条件に応じご活用いただけます。



