パン屋の経営者がM&Aを選ぶ理由

M&Aに踏み切る理由

パン屋を長く経営していると、「このまま続けるべきか、それとも店を手放すべきか」という局面に直面することがあります。

体力的な負担、後継者不在、将来への不安——その答えのひとつとして近年注目されているのが「M&A(事業譲渡)」です。

本記事では、中小企業白書や実際の事例をもとに、パン屋の経営者がなぜM&Aを選ぶのか、そのメリットを数字と感情の両面から丁寧に解説します。

※私たちベーカリービズは、中小企業庁のM&A支援機関登録済みの企業です。

廃業かM&Aか——悩む経営者が増えている背景

中小企業白書が示す現状

中小企業庁『中小企業白書』によれば、全国の中小企業の廃業率は年々高止まりしており、後継者不足が主要因のひとつです。

特にパン屋などの飲食小売業は**廃業率が年間約4〜5%**と高めで、事業承継率も低い水準にとどまっています。

パン屋特有の課題

  • 早朝からの仕込みなど体力的負担が大きい
  • 設備更新や店舗維持のコストがかかる
  • 原材料価格の変動が経営を圧迫
  • 地域顧客との結びつきが強く、閉店が地域経済にも影響

これらの課題は、廃業か継続かの決断を迫る要因となっています。

M&Aを選ぶ5つのメリット

メリット

1. 店舗とブランドを存続できる

廃業では看板やレシピ、顧客基盤が消えてしまいますが、M&Aでは新しい経営者がそれらを引き継ぎ、店の歴史が続きます。

2. スタッフの雇用を守れる

長年働いてきたスタッフの雇用を維持できるのは、経営者としての大きな安心材料です。

3. 財務的な利益を得られる

廃業では設備売却や在庫処分で費用がかかることもありますが、M&Aでは店舗や営業権が評価され、譲渡益を得られる場合があります。

4. 個人保証や負債整理の可能性

交渉によっては借入の引き継ぎや個人保証の解除が可能なケースもあります。

5. 地域への貢献が続く

常連客や地域イベントとのつながりを絶やさず、地域経済の一員として貢献できます。

パン屋M&Aの流れ(フロー図付き)

パン屋のM&A

以下は、M&Aの一般的な進行ステップです。

意思決定・家族との協議

まず、自分自身の経営の現状や将来の希望を整理し、家族や関係者と話し合います。

M&Aのメリット・デメリットを共有し、納得したうえで次のステップに進みます。

STEP
1

事業・財務データの整理

売上、利益、経費、在庫、従業員情報などの経営データを整理します。

正確な情報をまとめることで、買い手との交渉がスムーズになり、信頼性も高まります。

STEP
2

店舗・設備の整備

店舗の清掃や設備点検、必要に応じて改装を行い、店舗の価値を最大化します。

見た目や設備の印象が、買い手の興味に大きく影響します。

STEP
3

買い手候補の探索

仲介会社やM&Aプラットフォームを通じて、事業を引き継いでくれる買い手候補を探します。

候補の経営方針や規模、地域性も確認します。

STEP
4

条件交渉・基本合意

譲渡価格、従業員雇用条件、設備引き継ぎなどの基本条件を買い手と調整します。

双方が納得した内容で、基本合意書(LOI)を作成します。

STEP
5

契約締結・デューデリジェンス

財務状況や契約内容の精査(デューデリジェンス)を行い、正式な譲渡契約を締結します。法務・税務の専門家のサポートを受けることで安全性が高まります。

STEP
6

引き渡し・アフターフォロー

店舗や設備、業務の引き渡しを行います。引き渡し後も、一定期間サポートや相談を行い、買い手がスムーズに事業を引き継げる体制を整えます。

STEP
7

補足

  • フェーズごとに必要書類や準備内容を整理しておくと交渉がスムーズになります
  • 店舗の清掃・改装など「見た目の印象改善」は買い手の印象を大きく左右します

実際の事例紹介

M&Aの事例紹介

事例1:長野県の人気ベーカリーの譲受け事例

長野県の人気ベーカリーが、俳優・モデル・事業家の飯沼誠司氏に譲渡された事例があります。

飯沼氏はライフセービングの第一人者としても知られ、地域活動にも積極的に関与しています。

このM&Aにより、店舗のブランドや地域密着型の経営が継続されることとなりました。

詳細は日本M&Aセンターのコラムをご参照ください。

事例2:高田馬場のパン屋の譲渡事例

東京都新宿区高田馬場にあるパン屋が、弁当屋に事業譲渡された事例があります。

店舗は1階・3.5坪の広さで、3年間営業した後、70万円で譲渡されました。

この譲渡は居抜きで行われ、店舗の設備や内装がそのまま引き継がれました。

詳細はM&A総合研究所の事例紹介をご参照ください。

M&Aを成功させるためのポイント

ベーカリー専門M&A支援企業

専門家の活用

仲介会社やM&Aアドバイザーは、条件交渉・買い手探索・契約書作成までをサポートします。

ベーカリー業界に強い専門家を選ぶことが重要です。

情報の整理と開示

財務データ、売上推移、主要顧客、レシピなど、価値を示す情報をまとめておくと交渉がスムーズです。

心の準備

譲渡は経営者にとって大きな決断です。

家族や関係者と十分に話し合い、納得感を持って臨みましょう。

まとめ

パン屋のM&Aは、単なる「店を売る」行為ではなく、歴史・顧客・スタッフ・地域とのつながりを未来へ渡す手段です。

廃業という選択肢もありますが、M&Aは多くの経営者にとって「続けるための別の形」となり得ます。

数字が示す現状と、経営者の感情が伝えるリアルな声の両面から、自店の未来を考えてみてください。

パンを焼くオーナー
bakerybiz

この記事書いた人


BakeryBiz コンサルタント 山本 遼

(M&A・ブランド支援担当)

年商億規模のパン屋を経営し、事業売却を経験。
現在は全国のベーカリーを対象に、M&Aや事業承継を支援。
現場視点と実務知識を活かし、納得のいく譲渡をサポート。

株式会社アルチザンターブルは、中小企業庁のM&A支援機関に登録されており、「中小M&Aガイドライン」を遵守した適正な支援を行っています。
M&A支援業者への手数料を補助する「事業承継・M&A補助金」も条件に応じご活用いただけます。