パン屋経営の固定費と変動費を徹底分析|コスト構造を理解して利益率を上げる方法

売上はあるのにお金が残らない。
その原因は“コスト構造の見えなさ”にあります。
パン屋経営で黒字化を左右するのは、原価よりも「固定費と変動費のバランス」です。
BakeryBizの経営支援実績でも、月商300万円を超えていても利益が出ない店舗の多くは、経費配分の構造を把握していないケースが目立ちます。
この記事では、パン屋経営のコスト構造を整理し、実際に利益を出している店舗の管理方法と削減実例を紹介します。
目次
固定費と変動費の違いを理解する

まず基本となるのが「固定費」と「変動費」の区別です。
| 区分 | 内容 | 特徴 |
|---|---|---|
| 固定費 | 家賃・人件費(正社員)・リース料・保険など | 売上に関係なく毎月発生 |
| 変動費 | 原材料費・包装資材・電気代・パート人件費など | 売上に応じて変動 |
パン屋は、他の飲食業に比べて固定費比率が高い業態です。
つまり「売上を上げる前に支出が固定化されやすい」構造です。
固定費が高いということは、“赤字期間に耐える体力”が必要ということです。
開業時に最も重要なのは、毎月の固定費を1万円でも削る意識。
この1万円が、年間12万円=純利益1ヶ月分の差につながります。
パン屋における主な固定費の内訳

固定費の目安比率は、売上の35〜45%。
以下は、平均的な個人ベーカリー(12坪・従業員2〜3名)の固定費内訳です。
| 項目 | 月額目安 | 売上比率 |
|---|---|---|
| 家賃 | 10〜20万円 | 10〜15% |
| 人件費(社員) | 20〜25万円 | 15〜20% |
| 水道光熱費(基本料含む) | 5〜8万円 | 5〜8% |
| リース・保険・通信費 | 3〜5万円 | 3〜5% |
| 広告・販促 | 1〜3万円 | 1〜2% |
| 合計 | 約40〜55万円 | 35〜45% |
家賃は「売上の15%以内」がひとつの基準。
例えば月商300万円なら45万円以内に収めたいところです。
逆にこの数字を超えてしまう場合、営業日数や客単価を上げる設計を同時に考える必要があります。
変動費の種類と最適化ポイント

パン屋の変動費には、以下のような項目があります。
| 項目 | 内容 | 目安比率 |
|---|---|---|
| 原材料費 | 小麦粉・バター・酵母など | 25〜35% |
| 包装資材費 | 袋・シール・箱 | 2〜3% |
| 水道光熱費(使用分) | 電気・ガス・水道 | 5〜8% |
| パート・アルバイト | 売上連動型のシフト | 10〜15% |
ポイントは、「仕込み量と販売量のズレ」=ロス管理。
製造量を見誤ると、変動費が一気に膨らみます。
私が支援した店舗では、1日の廃棄率を“5%以内”に抑えるルールを設定しました。
これだけで年間約30万円のコスト削減。
ロス削減は、売上アップより確実に利益を増やせる施策です。
利益率を左右する「損益分岐点」の考え方

損益分岐点とは、「利益がちょうど0円になる売上額」のこと。
この考え方を持つことで、“どこまで売れば赤字にならないか”が見える化します。
計算式
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷(1−変動費率)
たとえば、
- 固定費 = 50万円
- 変動費率 = 55%(原価+光熱費など)
だとすると、
→ 損益分岐点売上高 = 50万円 ÷(1−0.55)= 約111万円
つまり、月商111万円を超えた部分からが利益になります。
“どんぶり勘定”の経営では、利益は偶然でしか出ません。
一方でこの分岐点を把握しているオーナーは、数字を戦略に変えられる人。
パン屋経営で長く続く方の共通点は、「感覚と数字の両輪」で判断している点です。
コスト削減の実例:横浜市12坪ベーカリーのケース

住宅街の12坪店舗(横浜市・個人経営)で実施した、年間50万円の経費削減実例を紹介します。
| 改善項目 | 内容 | 年間削減効果 |
|---|---|---|
| 電気契約プラン見直し | 契約容量ダウン+夜間割引適用 | 約10万円 |
| 食材仕入れルート再編 | 中間卸をカットし共同仕入れへ | 約15万円 |
| 廃棄削減 | 仕込み量をAI POSで分析 | 約8万円 |
| SNS広告停止+LINE販促へ移行 | 販促コスト半減 | 約12万円 |
| 水道基本料金の見直し | 使用量別契約へ変更 | 約5万円 |
| 合計 | 約50万円/年 |
コスト削減というと「節約」と捉えられがちですが、“不要な出血を止める”という発想が正解です。
無理に抑えるのではなく、成果と支出の相関を見直す。
その意識が「数字に強いオーナー」への第一歩です。
経営を安定させる3つの数字管理術

- 毎月の「損益計算表」を自作する
→ 会計ソフト任せではなく、数字を“理解して”使う。 - 固定費・変動費を別シートで管理
→ Googleスプレッドシートで可視化すれば誰でも分析可能。 - 「粗利率」と「廃棄率」をKPIに設定
→ 粗利率55%以上、廃棄率5%未満を目標に。
会計の目的は“税金を払うため”ではなく、“経営判断を早めるため”。
月次の数字を1ヶ月遅れで見るだけでも、決断スピードが変わります。
小さな店ほど、数字をリアルタイムで見える化する仕組みが大事です。
まとめ:数字を“味方”にするパン屋経営へ

- 固定費と変動費の構造を明確にする
- 損益分岐点を算出して「利益のライン」を可視化
- コスト削減は“無理なく仕組みで”行う
- 数字管理は税理士任せではなく“自分の言葉”で理解する
数字は冷たく見えて、実は“経営の鏡”です。
売上を上げる前に、支出の流れを整える。
それが、パン屋として長く続けるための最も堅実な方法です。

この記事書いた人
BakeryBiz コンサルタント 山本 遼
(M&A・ブランド支援担当)
年商億規模のパン屋を経営し、事業売却を経験。
現在は全国のベーカリーを対象に、M&Aや事業承継を支援。
現場視点と実務知識を活かし、納得のいく譲渡をサポート。
株式会社アルチザンターブルは、中小企業庁のM&A支援機関に登録されており、「中小M&Aガイドライン」を遵守した適正な支援を行っています。
M&A支援業者への手数料を補助する「事業承継・M&A補助金」も条件に応じご活用いただけます。
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ご相談は完全無料ですので、お気軽にご相談ください。
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監修・執筆:BakeryBiz編集部
※本記事は公開情報と筆者の実務経験に基づき執筆しています。統計値は出典の算出方法・時点により変動します。
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